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勘九郎、七之助が語る歌舞伎座、平成中村座の十八世中村勘三郎七回忌追善公演
10月歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」、11月平成中村座「十一月大歌舞伎」は、十八世中村勘三郎七回忌追善公演として、ゆかりの演目が上演されます。出演の中村勘九郎、中村七之助が、公演への思いを語りました。
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宝箱の歌舞伎座と夢の小屋、平成中村座で
早すぎる別れに言葉を失った平成24(2012)年12月5日から、はや6年になろうとするこの秋、歌舞伎座、平成中村座(東京 浅草寺境内)、2つの劇場で2カ月連続の十八世中村勘三郎追善の公演が行われます。祖父十七世勘三郎が父十八世勘三郎に、「追善ができるような役者になってくれ」と言い遺した言葉を思い浮かべ、その言葉を現実にできることのうれしさと喜びを表した勘九郎。その反面、「あまりにも早く逝ってしまった父を思うと、悔しさ、悲しみがまだまだあります」と率直な思いも吐露しました。
「これ宝箱だね、これからいろんなものがどんどん出て来るね」。建替工事中の歌舞伎座を見てもらした父のひと言と、その舞台に立てなかった無念を胸に、「その歌舞伎座で兄とともに、皆様の力をお借りして追善公演ができる。父も喜んでいると思います」と七之助。そして、平成中村座は「父の夢の小屋」という勘九郎は、「ここでいろんなことができると確信したロングラン公演のあと、すぐに父が逝ってしまいました。僕たちがその夢を引き継ぎます」と、力強く語りました。
十八世勘三郎、中村屋ゆかりの狂言づくし
10月は歌舞伎座。昼の部、『三人吉三巴白浪』では七之助がお嬢吉三、続く『大江山酒呑童子』は勘九郎の酒呑童子。『佐倉義民伝』は白鸚の木内宗吾、七之助のおさん、勘九郎の徳川家綱。夜の部は出演者がそろっての『宮島のだんまり』に続き、『吉野山』は勘九郎の狐忠信、玉三郎の静御前。『助六曲輪初花桜』は仁左衛門の助六、七之助の揚巻、勘九郎の白酒売、歌六の意休、玉三郎は満江。
11月、平成中村座の昼の部は『実盛物語』を勘九郎の実盛、『近江のお兼』を七之助のお兼で見せ、『狐狸狐狸ばなし』は扇雀の伊之助、七之助のおきわ、芝翫の重善。夜の部は『弥栄芝居賑』で賑やかに幕を開け、『舞鶴五條橋』は勘九郎の弁慶、『仮名手本忠臣蔵』「七段目」は芝翫の由良之助、七之助のおかる、勘九郎の平右衛門。いずれも十八世勘三郎にゆかりのある演目に、縁の深い俳優が出演します。
父の思い出の役、父の姿が目に浮かぶ役
勘九郎は、「祖父がつくり、父は2回しかやっていませんが、私も昨年、踊らせていただき、いつか歌舞伎座でやりたいと思っていた」『大江山』の酒呑童子からスタート。『吉野山』は十七世勘三郎の追善で、「父が(六世)歌右衛門のおじ様と踊った思い出をよく話してくれました。それを、大恩ある玉三郎のおじ様と踊る、幸せです」。『助六』の白酒売は「子どもの頃からいつかやりたい、助六よりやりたいと思っていたので本当にうれしい。でもまさか、仁左衛門のおじ様のお兄さんになるとは…」と、驚きも隠せません。
『実盛物語』は、「最初に父が(十七世)羽左衛門のおじさんに習ってやったとき、お前も見ておきなさい、と言われて楽屋の次部屋でずっと聞いていました。平成中村座の空間にマッチした時代物です」。『五條橋』では「平成中村座ならではの演出ができたらいいなと」。『七段目』は10年前、平成中村座で『忠臣蔵』を4バージョンで上演した際、初めて兄弟で平右衛門とおかるを勤め、「父が喜んでくれたものなので、初心を忘れず、一から稽古し直していい『七段目』にしたい」と意気込みました。
大役抜擢は父のおかげ
七之助は、「聞いただけで震え上がるような役ばかり。命がけで勤めます」と身を引き締めます。「『義民伝』では白鸚のおじ様の女房をやらせていただける。父が祖父を亡くしたとき、本当にお世話になった人なんだよとおじ様のことを話していました。驚きましたし、ありがたいのひと言」。おさんも初役なら『助六』の揚巻も初役です。「仁左衛門のおじ様が久しぶりになさる助六、それも歌舞伎座、そこで揚巻。これはおじ様のやさしさ、父に対する愛でしかありません」。
平成中村座ではより父の思い出がよみがえるようで、「父の『近江のお兼』が大好きでした。華やかな踊りは平成中村座にぴったり」。七之助は初役で踊りますが、同時に、登場する馬もお兼と息を合わせることが重要だと言い、「こういうところも、先人が築いてきたものを受け継いでいかないと」と、役を演じるだけでなくさまざまな思いを込めて公演に臨む姿勢も見せます。「父の伊之助が最高に好き」という『狐狸狐狸ばなし』は「肩の力を抜いてご覧いただければ」とアピールしました。
七回忌を迎えても変わらぬ思い
平成中村座をはじめ、納涼歌舞伎やコクーン歌舞伎などをつくり上げてきた十八世勘三郎。引き継いで来た勘九郎は、「舞台に集中するだけではなく、興行はじめいろいろなことに目と気を配らないといけないなか、胸に、心に、魂に残る芝居をし続けていた父の精神力、芝居を愛する心。あらためて尊敬しています」としみじみ。自分もそういう輝く存在、発信する存在にならなければと、これからずっとそう思うだろうと語りました。
「いつも舞台に出る前は、心で父にお願いいたしますと言っています。父ならどう思うか、どうするかを考えて人生を送ってきました」。七之助は父の立場で考えるようになって、あの明るい父にもつらさや孤独感があったと気づき、「それでも皆への愛があり、いざ舞台に立てば、技術、精神で人を魅了する。父はすごい人間、すごい役者でした」と感服の様子。語りつくせぬ二人の思いが、この秋の歌舞伎座、平成中村座の舞台に大きな花を咲かせます。