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ラスベガスで『KABUKI LION 獅子王』初日の幕が開く
5月3日(火)[日本時間5月4日(水・休)12:00]、アメリカ ラスベガスで新作歌舞伎『KABUKI LION 獅子王』が、初日の幕を開けました。
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親獅子が子獅子を谷底に落として這い上がるのを見守るという『石橋』の伝説の世界に、ラスベガスで初めて歌舞伎をご覧になるお客様に向け、歌舞伎の特徴的な演出をいっぱいに詰め込んだ『獅子王』。客席に半円がせり出したような舞台に、定式幕ではなく牡丹の花が描かれた襖が並び、余白を埋めるかのように、次々と牡丹の花が開いていきます。この作品では映像は第三の役者として、音楽に合わせ、俳優と絡みながら演技をします。
弘太郎が英語の口上で、親獅子(染五郎)が兄弟獅子に鵺(ぬえ)退治の試練を与え、兄弟が谷から人間界へ下ったことを語ります。初めは華やかな女方の踊りから続く舞踊劇で、物語の発端が描かれます。大敵(染五郎)に捕えられて縄で縛られた白縫姫(米吉)が、雪舟の故事にならい、つま先鼠で窮地を脱するくだりは、まるで『金閣寺』のよう。このあと随所にわたり、歌舞伎でお馴染みの場面が現れ、歌舞伎400年の歴史をダイジェストで見ているかのようなぜいたくな時間が続きます。
歌舞伎に登場する動物たちがそろっての楽しい踊り、邪悪な姫を押しのける押戻しの活躍、つづら抜けで正体を現す鵺の化身の凄み、目にも鮮やかな花魁道中、粋な太夫の芸には下駄タップにご当地ネタも盛り込んでの大サービスも。いなせな侠客が見せる伊達男の格好よさ、間夫のために訳ありの愛想尽かしをする乙星花魁の豪華さ、兄獅子十郎(歌昇)が客席までせり出して見せる大立廻りのスピード感。ほかにも、弟獅子五郎(隼人)の本水を使った大滝の立廻り、太夫と侠客のこぶ巻きの早替りなど、瞬きする間もないほど見せ場が続きます。
その間にも、扇状に広がった左右の壁には、色鮮やかな情景、大音響とともに大迫力で動き回る大蛇(おろち)や鵺が映し出され、鵺の火の玉や十郎の放つ矢などが、舞台上の俳優と息もぴったりなところを見せるので、劇場中が物語に包み込まれたかのようになります。さらに、パナソニック、NTTの最新技術を使用して、お客様が歌舞伎俳優顔負けの踊りを見せる映像や、背景に立体的な質感をもたらす投影技術などが登場します。
劇場は客席も扇型に並んでおり、一部はテーブル席を囲んでゆったり楽しめる空間となっています。舞台の曲線に沿ってつくられた銀橋が花道として使われますが、銀橋には緩やかな傾斜があり、舞台から銀橋への花道にも傾斜があるため、そこで行われる立廻りや花魁道中も新鮮な風景となり、お客様は目の前で繰り広げられる迫力に驚くばかり。
その距離の近さが最も感じられるのは、やはりクライマックスの親子獅子が見せる毛振りでしょう。見事、鵺退治を成し遂げた兄弟獅子の凱旋を祝福して優填王(歌六)が厳かな所作を披露した後、岩山にすっくと立つ三人の獅子。花道を駆け、音楽の高まりとともに毛振りの勢いは増し、どこまで続くのかと思うほど。最後にピタッと決まると同時に獅子たちに贈られた拍手は、ラスベガスの劇場初の歌舞伎が、大きな喝采をもって迎えられた証しとなりました。
市川染五郎の初日コメント
ラスベガスについてから寸暇を惜しんでの稽古、そんななか、初日の幕を開けて降ろすことができたことは、本当に皆さんの力だと思っています。こういうことをやりたい、できたらいいなと思うことが、幕を開けて始まった…、これはもう、ブレーキのないスタートだと思っています。
この作品は、こちらに来ていただかないとご覧になれない作品で、こちらの方にできるだけ多く見ていただく、それが目標です。何回も公演していただける作品を目指して初日を迎えました。さらに、一年中公演を、それも世界中の人がこの作品を上演する、世界中の人に歌舞伎を演じていただく、そこを目ざします。
映像については、色彩や美しさという歌舞伎に不可欠な要素があり、そこが共通言語だと思います。私は映像が歌舞伎の一つの演出方法となるような予感がしています。今回はその第一歩です。一回一回の公演の反応を敏感に感じ取り、次へつなげる、そういう日々を送りたいですね。
これが歌舞伎だ、と皆さんがご覧になるわけですから、出演者は歌舞伎の精神、演出を体現できないといけません。特に若手は、そういう大きな責任をもってこの公演に参加していると思うので大変です。私も一緒に頑張ります。初日は皆が持っている力をマックスに出したと思います。でも、明日はもっと伸びしろができる、マックスが上がります。明日もできることが本当にありがたいことです。