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六月博多座歌舞伎

博多座開場10周年記念

六月博多座歌舞伎

当公演は終了いたしました。

2009年6月2日(火)~26日(金)

昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~

劇場:博多座

料金(税込)

  • A席15,000円
  • 特B席12,000円
  • B席9,000円
  • C席5,000円

演目と配役

昼の部

一、祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)

金閣寺

松永大膳
此下東吉
雪姫
狩野之介直信
愛之助
勘太郎
七之助

二、近江のお兼(おうみのおかね)
  お祭り(おまつり)
〈近江のお兼〉


〈お祭り〉

近江のお兼


鳶頭駒吉

勘太郎


橋之助

恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)

三、玩辞楼十二曲の内 封印切(ふういんきり)
亀屋忠兵衛
傾城梅川
丹波屋八右衛門

七之助
愛之助

夜の部

一、通し狂言 木下蔭真砂白浪(このしたかげまさごのしらなみ)

中村橋之助宙乗り相勤め申し候

発 端

序 幕




二幕目
三幕目

大 詰
    摂津国 芥川堤殺しの場
第一場 尾張国 矢作橋の場
第二場 三河国 犀ケ崖山砦の場
第三場 同   崖上の場
第四場 同   崖中一本松の場
第五場 同   崖下の場
    山城国 南禅寺山門の場
第一場 山城国 壬生村治左衛門内の場
第二場 同   裏手千本松原の場
第一場 近江国 足利家別邸大広間の場
第二場 同   琵琶湖畔の場
石川五右衛門
真柴久吉
仁木太郎
女盗賊お峰/妹小冬
橋之助
愛之助
勘太郎

二、藤娘(ふじむすめ)
藤の精
七之助

みどころ

昼の部

一、祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)

  金閣寺

 中邑阿契らの合作により、宝暦七年(1757)、大阪・豊竹座で人形浄瑠璃として初演され、翌年歌舞伎化された。本名題は「祇園祭礼信仰記」。全五段の義太夫狂言で、「金閣寺」はその四段目。文字通り、金色に輝く豪華な装置が大ゼリに乗って上下する仕掛けが観客に受け、初演時にはロングランを記録したという。登場人物の多彩さ、幻想的な様式美と相俟って人気の高い一幕である。
 時は戦国時代。足利将軍家に反旗を翻した松永大膳が、将軍義輝の生母・慶寿院を人質に取り、金閣寺に立てこもっている。さらに「天井に墨絵の龍を描かせる」という名目で絵師雪舟の美しき孫娘・雪姫をも捕らえ、夫ある身の彼女を熱心に口説いていた。
 そこに現れたのが此下東吉。敵対関係にある小田春永の家臣だが、なぜか大膳に奉公したいという。疑念を抱きつつも計略に乗ったと見せかける大膳と、さらにその裏をかく東吉。春うららの金閣寺で碁を打ちながらの丁々発止が両者の最初の見せ場だろう。碁盤を使った東吉の端正な見得にも注目したい。
 東吉が奥に去ると、大膳は再び雪姫に迫る。その刀を見て、大膳こそ亡き父の敵と悟った姫は刀を奪って斬り掛かろうとするが、逆に組み敷かれてしまう。そして庭の桜の樹に縛りつけられた揚げ句、夫・狩野之介が刑場に追い立てられていく姿を目の当たりにさせられる。まさに絶体絶命。
 窮地に立った雪姫は祖父雪舟の故事にならい、足の爪先で桜の花びらを掻き集め、鼠の絵を描き始めた。すると、その絵に魂がこもって本物の鼠となり、縄を食いちぎる。そこに再び東吉が登場し、姫と慶寿院を救い出すという筋立て。
 「三姫」のひとつに数えられるヒロイン雪姫、国崩しの敵役・大膳、さわやかな捌き役・東吉、和事の二枚目・狩野之介、老け女形の慶寿院など、歌舞伎の代表的な役柄が勢揃いする。それぞれに為所が多く、役者ぶりが楽しめる狂言でもある。

二、近江のお兼(おうみのおかね)
  お祭り(おまつり)
近江のお兼

 文化10年(1813)に、江戸・森田座で、七世市川團十郎による八変化舞踊『閏茲姿八景(またここにすがたのはっけい)』の一景として上演された。作詞は二世桜田治助、作曲は四世杵屋六三郎。初演では長唄と常磐津の掛け合いで上演されたが、今では長唄のみの演奏となっている。

 可憐な見かけによらず大力の持ち主の娘が、暴れ馬の手綱を高下駄で踏んで押さえたという説話などを材にとったユニークな舞踊。琵琶湖をのぞむ堅田のあたり、晒盥を手に駆け出してきた近江のお兼は荒ぶる裸馬を止める。「まだ男には近江路や」からは、相撲のまねで力自慢をするほどのお兼の怪力を知らずに、見かけにつられて寄って来た若い衆を蹴散らす力強い踊り。しかし「ほんにほおやれ逢うよはおかし」からの歌詞に近江八景を詠み込んだクドキでは恋に悩む女らしさものぞかせる。最後は眼目の晒の踊りとなり、足駄を履き一丈二尺の布晒を振る勇壮な見せ場だ。明朗で華やかな曲の調子と、力強く大らかな所作がほのぼのと楽しめる。

お祭り

 文政9年(1826)に、江戸・市村座で三世坂東三津五郎による三変化舞踊『再茲歌舞妓花轢(またここにかぶきのはなだし)』の一景として初演、以後現在まで人気演目として繰り返し上演されてきた。作詞は二世桜田治助、作曲は初世清元斎兵衛。天下祭と称され、神田祭と並び江戸を代表する祭りの山王祭。幕府の全面的な庇護を受け、その行列は江戸城内にまで入れたという。45もの山車のうち、先頭が猿と鶏の山車だったことから、この曲の歌いだしも「さるとりの」で始まり、通称「申酉」とも呼ばれる。
 ほろ酔いで祭から帰っきた粋でいなせな鳶頭。街の衆からも「待ってました」の声が掛かり上機嫌。「じたい去年の山帰り」からのクドキで、酔いにまかせて惚気話を始めたかと思うと、「お手が鳴るから 銚子の替り目と」と狐拳で軽妙に踊って見せる。さらには「引けや引け」と祭りに因んだ引き物尽くしの踊りと続き、最後は打って掛かる若い衆を振り払って行き、幕となる。祭り好きの江戸っ子の心意気が感じられる風俗舞踊。

三、玩辞楼十二曲の内 封印切(ふういんきり)

 実際に起きた事件に取材して正徳元年(1711)、大阪・竹本座が近松門左衛門作による人形浄瑠璃「冥途の飛脚」を初演。これを増補改作した「けいせい恋飛脚」などをもとに「恋飛脚大和往来」がつくられ、寛政8年(1796)、大阪・角の芝居で初演された。 恋ゆえに自滅していく若い男の心の揺れと葛藤を描いた世話狂言。幕開きのはんなりした味わいから、後半の劇的な展開へ。鮮やかな対比が見どころのひとつだ。 飛脚を生業とする亀屋の養子・忠兵衛は遊女梅川にぞっこん。身請けの手付金は払ったものの、残金の工面がどうしても付かない。仕事で預かった大金を懐にしたまま、気づくと新町の茶屋井筒屋に梅川を訪ねていた。
 幕開きは、梅川が忠兵衛を思って物思いにふける表座敷の場面から。女主人おえんとのやりとりで廓の風情を見せた後、忠兵衛が登場。いったん格子先まで行って花道七三に戻り、「梶原源太は―」で手拭いを頭に乗せて自惚れてみせる。どこかのほほんと突き抜けているのが上方和事の二枚目。役者自身の持ち味や愛敬がものを言う場面でもある。
 おえんの計らいで二人は離れ座敷で、美しい色模様を見せる。その後、やはり梅川の身請けを考えている丹波屋八右衛門が憎まれ口を叩くのを聞いて我慢できず、二階から駆け下りていく忠兵衛。さらに悪態を重ねる八右衛門と、激しまいとしても押さえられず、挑発に乗ってしまう忠兵衛のやりとりが次の見せ場だ。封印を自ら切るのか、それとも弾みで切れてしまうのか。様々な型があるが、いずれにせよ、公金に手を付けたことで忠兵衛は死の決意を固める。クライマックスをどう盛りあげていくかが役者の腕の見せどころである。

夜の部

一、通し狂言 木下蔭真砂白浪(このしたかげまさごのしらなみ)

 博多座では初の上演となる通し狂言『木下蔭真砂白浪』。2001年10月に京都・南座での花形歌舞伎公演で上演され、歌舞伎ならではの趣向を随所にちりばめたダイナミックな舞台で客席を大いに沸かせた演目が遂に登場。
 タイトルにある白浪とは泥棒、盗人の意味で、大盗賊である石川五右衛門が主人公。豊臣秀吉の命によって捕らえられ、油の入った大釜で煮殺される「釜茹での刑」に処せられた有名な人物だ。生涯が謎に包まれた実像のよく分からない五右衛門は、これまで多くの芝居の題材となってきた。寛政元年(1789)に、人形浄瑠璃に続いて歌舞伎でも初演された『木下蔭狭間合戦』(若竹笛躬、二世並木千柳、近松余七合作)もそのひとつ。現在上演される機会がほとんどない、この芝居を下敷きにしながら、現代的な感覚で創意工夫を加え、数ある五右衛門狂言を再構築したのが、今回上演される作品である。

【発端】

 物語の発端は、現在の大阪府にあたる摂津国。芥川堤殺しの場で、石川五右衛門の出生の秘密と因果が描かれている。雷雨の中、旅路を急ぐ高貴な生まれの岩国御前を、通りすがりの治左衛門が金欲しさゆえに殺害。子を宿していた岩国御前が死の間際に産んだ男の子こそが、後の五右衛門というわけである。

【序幕】

 続く序幕は、尾張国の矢作橋、三河国の犀ケ崖周辺という、現在の愛知県が舞台。友市と猿之助と名乗る、共に大望を抱く若者が橋のたもとで偶然出会い、そこへ現れた女盗賊のお峰が将来性豊かな二人を犀ケ崖にある自らの砦へと誘う。砦では、足利将軍に仕える武将・仁木太郎照秋という素性を隠す蓮葉屋与六に、お峰が一目惚れする色模様や、盗賊一味を討とうと押し寄せる軍勢を、お峰が忍術で追い散らす場面も。お峰の恋する乙女としての顔と、盗賊の頭領としての顔。その変化は見どころのひとつ。
 お峰が所持していた秘術を記した巻物と天下の名刀・雄龍丸、雌龍丸を巡って、与六は友市に崖の上から突き落とされる。谷底へ落ちていく与六の姿は、宙吊りとなってグルグルと回転しながら下降する大技で表現。谷底では与六と友市、お峰、猿之助が顔を揃え、暗闇の中で巻物と二本の刀を探り合う、だんまりが展開される。まさしく理屈抜きの面白さが味わえる場面と言えるだろう。

【二幕目】

 二幕目は山城国と、今度は現在の京都府へ舞台が移る。南禅寺山門の場は、全五幕の長編作品『楼門五三桐』の中から単独で上演されることの多い名場面。極彩色の壮麗な山門で桜を眺める五右衛門の「絶景かな、絶景かな」という台詞が有名だ。華やかな山門の舞台装置が迫り上がり、階下に現れるのが巡礼姿の真柴久吉(豊臣秀吉)。大どてらを身につけた大盗賊の貫禄漂う五右衛門と、爽やかな美男子ぶりの智将・久吉が鮮やかな対比を見せ、錦絵のような光景を繰り広げる歌舞伎のエッセンスが詰まった場面である。今回の作品では、五右衛門が友市、久吉が猿之助の成長した姿という設定になっている。
 その後、物語は友市の家族のドラマへと移行。壬生村にある父・治左衛門の家へ久しぶりに戻った友市。しかし、彼こそが世間を騒がす石川五右衛門と知った父から勘当される。発端の場面で描かれた、自らの罪と因果を呪う治左衛門。高貴な出自を知って天下を望む五右衛門と、親孝行な妹・小冬との三人の気持ちのすれ違いが、取り返しのつかない悲劇へと発展していく。

【大詰】

 大詰が展開されるのは、現在の滋賀県にあたる近江国。天下を狙う五右衛門が朝廷の勅使に化けて将軍・足利義輝の別邸へ現れ、将軍の名代として饗応役を勤める久吉と再会する。昔馴染みの間柄ながら、異なる立場となった二人。出会った頃のように打ち解けて話し合ううち、久吉に謀略を見破られた五右衛門は、大きな見せ場である宙乗りで館から飛び去っていく。宙に浮かんだ葛籠の中から、五右衛門が姿を現す「葛籠(つづら)抜(ぬ)け」。数ある歌舞伎演出の中でも、観客をアッと驚かせ、高揚感をかきたてるケレン味に富む趣向だ。
 久吉や仁木太郎照秋、お峰に追い詰められていく五右衛門を中心にした、雪の琵琶湖畔での大立回りも大きな見どころ。全編を通して、京都や滋賀の名所など各地を旅しているかのような感覚を味わうこともできる。
 大盗賊として名を馳せる大胆不敵な五右衛門と、個性豊かな登場人物たちが見せる格好良さや愛嬌、人間味なども見逃せない。

 8年ぶりの上演となる今回は、前回に続いての出演となる石川五右衛門の中村橋之助、女盗賊お峰と妹小冬の中村扇雀に、さらに真柴久吉の片岡愛之助と仁木太郎の中村勘太郎という新しい顔ぶれが加わり、さらにパワーアップした清新でエネルギッシュな舞台が期待できる。

二、藤娘(ふじむすめ)

 近松門左衛門の時代浄瑠璃「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の一節にちなんだ長唄舞踊で、文政九年(1826)、江戸・中村座で上方役者の関三十郎がお名残狂言として初演した。
 絵師の又平が描いた大津絵から、絵の精が次々に抜け出して悪者を懲らしめる場面を取り上げ、舞踊化したもの。藤娘のほか、座頭、天神、奴、船頭を踊り分ける五変化舞踊だったが、次第に単独で踊られるようになり、昭和12年(1937)の東京・歌舞伎座公演で、六代目尾上菊五郎が藤の精が娘姿で踊るというスタイルを確立して以来、大ぶりの藤を飾った舞台装置や演出とともに主流となった。日本舞踊でも指折りの人気曲だ。
 舞台も客席も灯りが落とされた中、「若紫に十返りの」という唄が聞こえてくる。パッと明転すると、舞台正面に巨大な松に絡んだ盛りの藤。その前に黒の塗り笠をかぶり、藤づくしのあでやかな衣裳をまとった娘が一枝の藤を担いで立っている。笠に手を掛け、花を見回す形などを見せた後、いったん松の陰へ。藤の花房を恥ずかしげに掻き分けて顔を覗かせ、乙女の羞じらいを表現する。
 石山、比良の雪など近江八景の詠み込まれたクドキに続いて、着付けを替え、古風なやり方では「潮来出島」が、六代目系であれば「藤音頭」が入る。藤音頭は、藤の花に酒を注ぐと花付きが良くなるという俗説を受けて娘の酔態を見せる趣向で、岡鬼太郎の作詞。まず、演手が小走りになって上手、下手、真ん中の客席に向かって挨拶する。役者ならではの愛敬とかわいらしさが見もの。「うちの男松」から色っぽい踊りとなり、しっとりした酔態へ。さらに「松を植よなら有馬の里へ」で松づくしのリズミカルな手踊りとなる。
 小品ながら、見た目が華やかで変化に富んだ人気曲。流れるような動きや、そらせた体に絡む藤の美しさなどにも注目したい。

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