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歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」初日開幕

 

 2023年11月2日(木)、歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

 昼の部は、世界三大叙事詩の一つ、「マハーバーラタ」を原典とした『マハーバーラタ戦記』。熱狂を巻き起こした平成29(2017)年の初演から6年ぶりとなる今回、新たな出演者も加わり、脚本と構成を練り直した再演となります。

 

 開幕すると、そこは神聖な神々の世界。煌びやかに居並んだ神々は人間界を見下ろし、争いを繰り返す人間たちを嘆きます。中央にそびえる那羅延天(ならえんてん/菊五郎)が「この世の終わりが始まる」と告げると、滅びの神・シヴァ神(菊之助)は人間たちが始める戦争で世界が滅ぶだろうと語ります。すると、太陽神(彌十郎)は世界の終わりを止めるため、慈愛に満ちた子を人間界へ送り救世主にしたいと告げ、軍神である帝釈天(彦三郎)は圧倒的な武力をもって世界を支配すべきだと、若く徳の高い汲手姫(くんてぃひめ/米吉)との間にそれぞれ迦楼奈(かるな/菊之助)と阿龍樹雷(あるじゅら/隼人)をもうけます。

 

 16年が経ち、天性の弓の才能を秘めた青年へと成長を遂げた迦楼奈は、ある日、太陽神から人間界の救世主であるとのお告げを受けます。王が亡くなったばかりの王宮では、百合守良(ゆりしゅら/坂東亀蔵)、風韋摩(びーま/萬太郎)、阿龍樹雷、納倉(なくら/鷹之資)、沙羽出葉(さはでば/吉太朗)の五王子と、その従兄弟である鶴妖朶王女(づるようだおうじょ/芝のぶ)と道不奢早無王子(どうふしゃさなおうじ/猿弥)姉弟による王位継承争いが勃発。仙人久理修那(くりしゅな/錦之助)の助言により王位を競う武芸大会が開かれることに。都へやってきた迦楼奈はその武芸大会に出場し、阿龍樹雷と対峙します。

 

 やがて、迦楼奈と阿龍樹雷は、葛藤しながらも自らの使命を受け入れていきます。菊之助と隼人の二人は初演でも話題となった客席を貫く両花道を走る馬車に乗り、激しい立廻りを見せると、客席も盛り上がりを見せ、汲手姫という同じ母親をもつ二人の運命がぶつかり合う場面に拍手が止みません。戦乱の場面では、迦楼奈を演じる菊之助と、我斗風鬼写(がとうきちゃ)を演じる丑之助が立廻りを見せ、その親子競演に、観客からは大きな拍手が送られました。両花道を使った効果的な演出をはじめ、屏風を模した大道具、甲冑の衣裳デザインなど視覚的な楽しさから、歌舞伎座の空間に響き渡る国際色豊かな音楽、次々に繰り広げられる怒涛の展開は時が経つのを忘れてしまうほど。あふれんばかりの躍動感と哲学的な問いの余韻を残し、客席は大きな拍手で満たされました。

 夜の部は、『松浦の太鼓』で幕が開きます。俳人の宝井其角(歌六)は、笹売りに身をやつした赤穂浪士の大高源吾(松緑)に出会います。其角の俳諧の弟子でもある源吾は、其角の詠んだ上の句に「明日待たるゝその宝船」と下の句を残し去っていきます。そして翌日、大名・松浦鎮信(仁左衛門)の屋敷では、其角を招き句会が催されていますが、松浦侯は源吾の妹で腰元のお縫(米吉)の姿を見て苛立ち、其角から前日の源吾の話を聞くと、赤穂には忠義に厚い浪士がいないのかとさらに苛立ちが増します。するとそこへ、隣の吉良邸から陣太鼓の音が…。一つ二つと指折り数え、赤穂浪士による討入りを覚る松浦侯の姿に、観客も心高鳴る様子で熱い視線を注ぎます。大名の風格と教養、そして喜怒哀楽を自在に表し愛嬌を備える松浦侯。「忠臣蔵」外伝の人気作を、歌舞伎座では平成14(2002)年以来21年ぶりに歌舞伎座で演じる仁左衛門の姿に、客席からは拍手が鳴り止みませんでした。

 

 続いては、義太夫狂言の傑作『鎌倉三代記』。三浦之助義村の母が病に伏す絹川村の侘びた住居。京方と鎌倉方の争いのさなか、京方の三浦之助義村(時蔵)を、恋人である鎌倉方の時姫(梅枝)が出迎えます。時姫は父の北條時政と恋人の三浦之助との板挟みに苦しみ、ついに苦渋の決断を下し…。二枚目の若武者である手負いの三浦之助を時蔵が、“三姫”と呼ばれる女方の大役の一つである時姫を梅枝が勤め、運命に翻弄される男女を色濃く演じると、客席はその一挙手一投足に見入りました。そして、前半では可笑しみを見せる藤三郎が、後半では佐々木高綱(芝翫)として本性を現し、勇将たる姿でこれまでの計略を語る対照的な姿に観客は沸き立ちました。趣向に富んだ重厚な義太夫狂言の傑作に、大きな拍手が送られました。

 

 夜の部を締めくくるのは、「顔見世」を彩る舞踊3題をお届けする『顔見世季花姿繪』です。初めは、春の七種行事を曽我兄弟の仇討ちと結びつけた舞踊『春調娘七種』から。親の仇である工藤祐経の館に現れた、曽我五郎(種之助)と曽我十郎(染五郎)の兄弟。工藤を討とうと血気づく兄弟を、春の七種を摘む静御前(左近)が押し止めます。七種の名を巧みに織り込んだ長唄に乗せ、若手三人が華やかに踊る姿に客席は温かい空気に包まれました。

 

 続いては、清元による『三社祭』。浅草寺本尊の観音像を拾い上げた二人の漁師(巳之助、尾上右近)が粋な踊りを見せると、頭上に黒雲が下りてきて、二人に悪玉と善玉が取りつきます。悪玉と善玉の面をつけた二人の踊りは、軽快で可笑しみにあふれ、躍動感ある勢いを見せます。悪玉と善玉の二人が競い合うように踊る姿に拍手喝采、大いに盛り上がりました。

 

  そして最後は、吉原の遊廓を舞台に風情ある踊りでみせる『教草吉原雀』。男女の鳥売り(又五郎、孝太郎)が吉原の客をさまざまな鳥たちに例えて踊り、吉原通いの様子や廓の風習を伝えます。鳥刺し(歌昇)が登場し、賑やかさが加わり客席も浮き立ちます。やがて三人の正体が明らかになると、驚きとともに沸き上がり、華やかに幕となりました。

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歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」初日開幕

 

 歌舞伎座地下2階の木挽町広場では、11月27日(月)まで、有名作家25人の作品を一堂に集めた第6回「ねこ展~ねこ・猫・ネコ アート&グッズフェア」を開催します。お近くに来た際にはぜひお立ち寄りください。

 

 歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」は25日(土)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2023/11/10