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歌舞伎座「六月大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「六月大歌舞伎」初日開幕

 

 2023年6月3日(土)、歌舞伎座「六月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

 昼の部は、近松門左衛門による義太夫狂言の名作『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』から。今月は昭和45(1970)年に三代目猿之助(現 猿翁)が補綴・演出をして復活上演した澤瀉屋の演出で上演されます。

 

 幕が開き、絵師の浮世又平(中車)、女房おとく(壱太郎)の夫婦が花道より登場すると、期待感の高まりに客席からは大きな拍手が送られます。師匠の土佐将監(歌六)から土佐の名字をもらいたいとの願いを抱く二人を、寿猿演じる女中お百が出迎え、客席を和ませると、そこへ百姓に追われた虎が藪の中から出現。これを絵から抜け出た虎と見破った将監に、又平の弟弟子・修理之助(團子)が自分にかき消させてほしいと申し出ます。負けじと又平も名乗りを上げますが、将監は修理之助を指名。修理之助は見事に筆の力でその虎をかき消し、土佐の名字を許されることになります。目の前で弟弟子に先を越された又平の哀れさが強調される澤瀉屋独特の演出です。

 

 吃音のため思うように話すことのできない又平に代わり、口達者なおとくが夫の思いを切に訴える場面や、絶望する又平に寄り添うおとくの姿に夫婦の絆が滲み、胸に響きます。このたびは、昭和45(1970)年以来、53年ぶりに「浮世又平住家」を上演。又平が描いた大津絵から人物たちが抜け出す賑やかな演出と、澤瀉屋ゆかりの「おまんまの立廻り」も楽しく、客席も大盛り上がり。全編を通して竹本葵太夫の浄瑠璃が情感豊かに響き渡り、又平夫婦の情愛と、華やかな幕切れに場内は大きな拍手と感動に包まれました。

 

 続いては、本年没後130年を迎えた河竹黙阿弥が、草双紙をもとに脚色した『児雷也』です。蝦蟇(がま)、大蛇、ナメクジの妖術を使う児雷也と大蛇丸と綱手の「三すくみ」の対決でも広く知られる人気作。当月は、児雷也(芝翫)と、実は児雷也の許嫁である綱手(孝太郎)、山賊夜叉五郎(松緑)、高砂勇美之助(橋之助)が繰り広げる“だんまり”など、歌舞伎ならではの様式美に満ちた楽しい場面が満載です。児雷也が伝授された妖術によって蝦蟇が出現すると、ケレン味あふれる舞台に大きな拍手が巻き起こりました。

 

 昼の部を締めくくるのは、華やかな舞踊『扇獅子』。舞台は、新年を迎えた日本橋。芸者たち(壱太郎、新悟、種之助、米吉、児太郎)が、心浮き立つ春から初夏へ、季節の移り変わりを艶やかに踊ります。清元の叙情的な旋律が耳に心地よく、芸者衆の美しさが視線をひきつけるなか、季節は秋へ。福助勤める成駒屋のお福が登場すると、舞台上がさらに華やぎます。芸者衆は、扇を獅子頭に見立てた扇獅子を華やかに見せ、獅子の毛ぶりを披露。芸者たちが息を合わせてみせる江戸の四季の移ろいに、場内が朗らかな雰囲気に包まれました。

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 夜の部は、『義経千本桜』より、「木の実・小金吾討死・すし屋」と、「川連法眼館」を上演。物語の始まりは、大和国にある吉野下市村の茶店。いがみの権太(仁左衛門)は、親切ごかしに若葉の内侍(孝太郎)と嫡子の六代君(種太郎)、家来の小金吾(千之助)に近づくと、鮮やかに小悪党の本性を現し、金を巻き上げます。このように悪事を働く権太ですが、女房の小せん(吉弥)と息子の善太郎(秀乃介)に見せる姿は愛情にあふれ、「木の実」での家族の温かな場面が後の「すし屋」で起こる悲劇の伏線となります。「小金吾討死」では、小金吾が大勢の捕手たちとの立廻りを勇ましく披露。そして舞台は、世事に翻弄される庶民の哀切が胸に響く名場面「すし屋」へとつながります。

 

 いがみの権太が放つ表情や佇まい、ふとした仕草一つひとつには、ならず者でありながらどこか憎めない魅力があふれ、観客の心を掴みます。母お米に甘える姿には客席から笑みがこぼれる一方、権太がすし桶を抱えて花道を引っ込む場面は緊迫感が広がり、緩急ある展開で魅了します。家を勘当された権太が父弥左衛門(歌六)に抱く本心が涙を誘い、家族の情愛が心に沁みる名作に、大きな拍手が巻き起こりました。

 

 続く「川連法眼館」は、原作の四段目の切にあたることから、「四の切」の通称で親しまれる人気場面。川連法眼の館へ匿われている源義経(時蔵)のもとへ、訪ねて来た家臣の佐藤忠信(松緑)。義経は、伏見稲荷で預けた静御前の安否を尋ねますが、忠信は覚えがない様子です。これを不審に思った義経から忠信詮議を命じられた静(魁春)が初音の鼓を打つと…。

 

 忠信を演じる演出の一つに、五世尾上菊五郎が完成させた音羽屋型があり、ケレン的要素は最小限に抑え、狐の親子の情愛を色濃く描き出します。本性をあらわした源九郎狐が見せる狐手や「狐詞(きつねことば)」と呼ばれる独特のせりふ回しには、狐の神秘性が漂い、親狐への孝行を果たせなかった悲しみに源九郎狐の切なさが滲みます。幕切れでは、狐親子の恩愛だけでなく、狐と人間との慈愛があふれ、場内が温かな雰囲気に包まれました。

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 歌舞伎座地下2階の木挽町広場では、「江戸の粋と伝統」が開催し、江戸工芸品が販売されます。扇子、履物をはじめ、15日(木)からは江戸木版画、江戸刺繍も販売。江戸東京の伝統が入り混り、常に変化を続ける日本橋の人気老舗が多数出店していますので、ご観劇の際はぜひお立ち寄りください。

 

 

 歌舞伎座「六月大歌舞伎」は25日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

 

※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です

 

2023/06/07