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歌舞伎座『荒川十太夫』松緑が泉岳寺参拝、講談会で特別鼎談に登壇
2022年10月4日(火)から始まった歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」『荒川十太夫』に出演の尾上松緑が、作品ゆかりの地である東京 泉岳寺を墓参し、公演に向けての思いを語りました。
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歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」第一部では、講談師で人間国宝の神田松鯉が得意とする講談の名作『荒川十太夫』が、新作歌舞伎として上演されます。物語の始まりとなるのは、松緑演じる荒川十太夫が、堀部安兵衛の七回忌の墓参りをする場面です。講談師の神田松鯉、神田伯山とともに泉岳寺の堀部安兵衛墓前での法要に参加した松緑は、「これまでも折に触れてお参りさせていただいていましたが、今回は“勤めさせていただきますので、どうぞ見守っていてください”という気持ちで手を合わせました」と、心境を語りました。
講談の『荒川十太夫』について「初めて聴いたのはCDですが、目の裏に映像がぼんやり浮かんできて、聴き終わる前にこの作品を歌舞伎にしたいと思いました」と、熱い思いを語る松緑。新作の上演に向けて、「この作品は、私の役者人生のなかでとても大きな節目。前のめりなので、苦労はあまり感じていません。ただ、一人で何役も演じ分ける講談と違い、歌舞伎ではそれぞれの役者が各人物を演じるので、講談にはない心境、行間を埋める作業があり、話し合って楽しく稽古を進めています。それぞれの登場人物が意味をもち、全員の心のうねりで一つの物語をつくれるようにしたい」と、抱負を述べます。
『荒川十太夫』について松鯉は、「赤穂義士の物語が今でも人気である所以として、身分は関係なく、人と人がハートで繋がっているという点があると思います。惻隠の情ですね。弱い者、いたいけな者を常に温かい眼差しで包み込み、長いものには巻かれない、ということは講談の美学でもあります」と、その魅力に触れます。伯山も「聞き終わったあとに人の優しさ、人情に触れたという満足感があり、神田松鯉の芸が体現されている作品だと思います。絶やしてはいけないと思っていましたが、縁が重なり、大歌舞伎としてより多くの人に知られることが素晴らしい」と、歌舞伎座での上演への思いを語りました。
さらに松緑が「いいものが後に残れば、後世に生きる人々の心が温かくなると思います。忠臣蔵の物語は、古い言い方かもしれないけれど、“男のロマン”。現代では薄まってしまったこの魅力を残していきたいですし、人の心の温かさのなかにこそ忠義があることを、今のお客様に観ていただきたいです。『荒川十太夫』は新歌舞伎に寄せて、世話物のようにつくっていますので、そこから段階を踏んで、古典歌舞伎における忠義も理解していただける日がくれば」と、気持ちを込めました。
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「芸術祭十月大歌舞伎」を前に、9月28日(水)には歌舞伎座で『荒川十太夫』上演を記念した講談会が開催されました。特別鼎談には松緑も登壇して、この日が傘寿となる松鯉の誕生日を祝い、満席となった場内から割れんばかりの拍手が。三人がテンポのよいやり取りで会場を笑いに包みながら、今回の講談会への思いや、『荒川十太夫』の魅力について語り、大盛況のうちに幕を閉じました。
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歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」は、27日(木)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。