ニュース

梅玉、魁春 六世中村歌右衛門十年祭追善への思い~新橋演舞場三月大歌舞伎

梅玉、魁春 六世中村歌右衛門十年祭追善への思い

 新橋演舞場「三月大歌舞伎」では、六世中村歌右衛門十年祭追善狂言として、昼の部に『伽羅先代萩』、夜の部に『吉原雀』を上演します。公演に先立ち、中村梅玉、中村魁春が追善への思いを語りました。

中村梅玉
 父・六代目歌右衛門が亡くなって、今年の3月31日で10年になります。こうして歌右衛門の名が世に出で、父の元気な頃の舞台を知らない若い皆さんにも見ていただくことができるのは本当に有難いことです。父をはじめとする先輩方が歌舞伎に尽くし引っ張っていってくれたおかげで今の歌舞伎の隆盛があるのだと思います。歌舞伎界全体がこの先どうなっていくか心配していた父も、お陰様で歌舞伎はますます盛況になっておりますから、安心してくれているのではないでしょうか。

 『伽羅先代萩』では八汐を勤めます。普段勤めさせていただくことが多い二枚目のような役とは違い、こうして敵役をやらせていただくと発散ができて凄く気分が良いです。弟(政岡)を苛めるくらい朝飯前ですから(笑)。この狂言には栄御前の芝翫兄さんをはじめ、福助さん、東蔵さん、松江さん、玉太郎君、と一門の方々が出演してくださって、大変幸せな事です。『吉原雀』は私と父で何度も踊った思い出深い舞踊です。夜の部の最後、福助さんとご一緒する華やかな踊りをぜひお楽しみいただきたいと思っています。

 我々兄弟の初舞台は昭和31年のお正月でしたが、その翌月の2月に父が政岡を勤め、私が千松、魁春が鶴千代を勤めさせていただきました。もちろん加賀屋福之助、加賀屋橋之助を名乗っていた時代でしたけれども、そんな思い出も今となってみると凄く懐かしく思い出されます。10年経っても父はまだ我々のそばに居てくれているような気がして、どんなお役のときも、もし父がこの舞台を見ていたらどう思うかを考えながら勤めています。何しろ舞台は誠心誠意全力で勤めなければいけないということをよく言われました。初日よりも2日目、2日目よりも3日目、少しでも進歩していかなければならない。その言葉を胸に誠心誠意全力で勤めたいと思っています。

梅玉、魁春 六世中村歌右衛門十年祭追善への思い

中村魁春
 父の追善で政岡という大役をさせていただくことになりました。女方のなかでも最高に重い役、ずっと憧れていたお役です。父の政岡で、鶴千代や澄の江をも勤めさせていただいた頃を思い出し、せりふを覚えながら、こういう役がやれるようになったと改めて感激しています。なるべく父の通りにやるつもりですが、なかなかそうはいきませんので、やはり"魁春の政岡"でと思っています。芝翫兄さんをはじめ皆様方の力を借りて一所懸命に勤めさせていただきたいと思います。

 今回、飯炊き(ままたき)もやらせていただきます。父のように政岡の気持ちを忘れずにご飯を炊きたいと思っています。今のお客様には飯炊きの部分はちょっと長すぎるのではないかというようなご意見もありますが、父は飯炊きがないと政岡という人が出ないと言っておりました。実際の父もハワイ旅行などでは、飯炊きをして、我々に朝食を作ってくれました。兄は鶴千代のように食べるだけ、私は洗い物(笑)。飯炊きというと、そんなことも思い出します。

 父が亡くなった日は、3月というのに雪がたくさん降っており、桜も満開で、夜には月が出て、まさに"雪月花"。お陰様で亡くなるときにも立ち会うことができました。父の政岡は、子供に対する情、殿様に対する従が伝わってきまして、本当の政岡という人はこういう人かなと思わせるものでした。この十年祭追善があればこそ、政岡を勤めさせていただけるのだと思います。やはりあの世に行っても、父はいつも我々のことが心配なのではないかなと思います。

2011/02/05