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新橋演舞場『オセロー』初日、芝翫の意気込み
9月2日(日)、新橋演舞場で『オセロー』が開幕、主演の中村芝翫と、檀れい、神山智洋、前田亜季が初日終演後に語りました。
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稽古の積み重ねが花開いた初日
初日の舞台を終えたばかりで、「とにかくほっとしています。今日はお客様と一丸となって舞台をこしらえたなという感じでした」とにこやかに語った芝翫。「自分の肉体、自分の心を通してせりふが出ているようにしないといけない」と、シェイクスピア作品の難しさを痛感した一方、「やり始めると、もっとやりたいなと思ったりしています」と、その魅力にもすっかりはまっている様子を見せました。
「まだ興奮冷めやらずで、デズデモーナを引きずっています」と、緊張感をにじませた檀。「初日の幕が開いてちょっと気持ちが解けて、カーテンコールではいつもの自分になっていたような…。こういう作品なのであまり自分を出したくなかったんですが…」と、いつものジャニーズWESTの顔も見せた神山。前田は「幕が開いてほっとしています」と、ようやく笑顔がこぼれました。
シェイクスピア作品というプレッシャー
「俳優である以上、シェイクスピアはとり組んでみたい作品」と芝翫は言いましたが、四人ともシェイクスピア作品は初めて。檀は「何百年もいろんな国のたくさんの人が演じ続けてきた大きな作品で、緊張と不安がありました」。前田はコスチューム・プレイも初めてで、「檀さんにすべて教えていただいて、動き方から身のこなし、メイクまで頼りにしっぱなしです」。出演者で女性はたった二人、檀が「パワーを合わせて頑張ります」と団結力をアピールしました。一方、神山は作品と格闘した稽古を振り返り、今はその先を見据えています。
「自分の中につくり上げた憎しみをオセローに渡さないといけないと、演出の井上尊晶さんに言われ、芝翫さんのパワーに乗っかり、芝翫さんにもらって倍にして返すように頑張っています。膨大なせりふ量、やることもたくさん。皆さんに支えていただき、本番ではイアーゴーをしっかり1カ月間勤め、走り抜けたい。ご覧になった皆さんに“こいつ、嫌い”と思ってもらいたい。でも、人間味も出せて感情移入できるイアーゴーを突き詰めていきたいなと思っています」
忘れられない初日から始まった『オセロー』
神山の意欲的な宣言に、檀も「一回一回、一ミリでも成長できるように、心を尽くしてデズデモーナを生きていきたい」と続けました。そんな檀を芝翫は絶賛。「お人形さんみたいにきれい。最初の登場は、花道を歩いている間に、その人形に命が吹き込まれていくよう。檀さんのデズデモーナははっきりと自分の魂を持っていて、力強さを感じます」。
前田も、「これからどんどん深まっていくように頑張りたい。芝翫さんが座組のいい雰囲気をつくってくださるので、一丸となってこのいい空気のまま、千穐楽まで突っ走りたい」と、これからますます舞台が楽しみになる発言が続きました。演出の井上ほか、蜷川幸雄のもとで芝居をつくってきた俳優、スタッフが多く、「楽屋に蜷川さんの写真が飾ってあったりして、今日は蜷川さんがいらっしゃっていたと思います」と、しみじみ語った芝翫。
芝翫にとっては特別な初日でもありました。父の七世芝翫が最後の舞台に立ったのが、平成23(2011)年の新橋演舞場公演の初日、9月1日。その7年後の9月2日に新橋演舞場の舞台に立ったのが、八代目芝翫。「なんとなく芝翫の魂が入れ替わったような気がして。今回はそのときの父の楽屋に入れさせていただいています。そして、今日は歌舞伎座で兄(福助)が舞台復帰。9月2日は忘れられない日」。込み上げるものを抑えるように、「とにかく演舞場に足を運んでご覧いただきたい」と笑顔とともに締めくくりました。
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たゆたう光が水面のきらめきに変わり、ゴンドラに乗ったイアーゴーたちが現れると、そこはもうヴェニス。幕開きからイアーゴーは、自分が副官になれなかったことへの不満と憎しみをあふれさせ、奸計をめぐらせます。一方、軍事会議の席に姿を見せた将軍オセローは、その功績を皆が称賛するばかりか、迎え入れた花嫁デズデモーナは誰もが目を奪われるほどの美しさ。重厚な衣裳の軍人たちのなか、穢れのない白の衣裳の二人が目にまぶしく、イアーゴーはいっそう恨みを募らせていきます。
第二幕からは、劇的な勝利で威厳と自信に満ち満ちていたオセローが、イアーゴーの巧妙な罠に落ちていくさまが描かれます。イアーゴーの悪魔のささやきが、オセローには忠実なる男の親切な忠告に聞こえる皮肉。祝福された結婚はいつしか呪われた結婚に変わり、イアーゴーの毒が面白いように舞台に沁み渡っていきます。舞台にしつらえられた長く大きな階段が、見えない向こうで起こっているドラマを想像させ、何度も昇り降りするさまは感情のゆらぎにも見えてきました。
第三幕は、嫉妬という怪物が暴れまわった結果、イアーゴーの思惑を超えてオセロー、デズデモーナ、侍女でイアーゴーの妻でもあるエミーリアたちに訪れた悲劇が、シェイクスピアが紡ぎだしたせりふとともに心をかき乱します。デズデモーナが切々と歌う「柳の歌」が涙をさそい、あの英雄然としたオセローがなぜこんなにまで追い詰められたのか、オセローの慟哭、苦悩のさまが脳裏に焼き付いて離れません。
若手の神山が野心をむき出しにして感情をほとばしらせれば、イアーゴーの毒がどれだけのものか想像するのさえ恐ろしく、なによりもオセローの心根の純粋さが際立ちます。芝翫のオセローは序幕から終盤までの大きな起伏を、その演技とせりふで忌憚なく見せます。極限まで心を乱した男、大切な宝を投げ捨てた男の悲劇には鬼気迫るものがありました。
そして、物語が終わりを迎え、最後に訪れる静寂。そこへ松任谷正隆の紡ぎ出したメロディーを奏でる透き通るような歌声。濃厚な時間はあっという間に過ぎ、初日のカーテンコールでは大きな拍手が鳴り止みませんでした。
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新橋演舞場『オセロー』は9月26日(水)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹で販売中です。