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「坂東玉三郎 映像×舞踊公演」への思い
10月30日(火)~11月4日(日)、八千代座「坂東玉三郎 映像×舞踊公演」が開催されます。公演に向けて玉三郎が語りました。
映像との共演が生んだ新たな表現
昨年、初めての試みとして、一つの演目を映像と実演で上演する「映像×舞踊公演」が八千代座で行われました。特に『鷺娘』は「映像がよくできていたのと、意外とボリュームがあったように感じていただいたようで」、再び同じ趣向で、今年は『鏡獅子』『藤娘』が上演されることになりました。昨年は、映像に任せた部分があるぶん全曲踊るより体力的に楽かと思ったら、「解説と口上でしっかりお客様に納得してもらおうと頑張ったら、(部分的に)2本踊って実はへとへとでした」とのこと。
「初めは違和感があったけれど、だんだん映写の方たちとうまくリンクさせられるようになってきました。ブルーホリゾントに映像が流れるところも意外によく、そこに私が入っていくと、幻想的なダブルイメージになったのが意外でした」と、新しい表現方法に思わぬ魅力も生まれました。「(映像の)自分の大きさが自分の本体と同じくらいだと、リンクしながら踊れます。なるべく等身大のところへ出ていくようにしました」。さらなる表現の可能性もおおいに感じられると語りました。
前シテも後シテも難しい『鏡獅子』
『鏡獅子』を玉三郎が全曲踊ったのは平成20(2008)年の八千代座が最後です。今回は前シテの弥生を踊り、毛振りのある後シテは歌舞伎座で唯一見せた平成4(1992)年10月の映像を使います。「たぶんこの1回しかやらないだろうと、藤色と黒、両方の衣裳で踊っています。藤色のほうがやわらかさは出ました」。もともと「一つの趣向としてできたもの」なので、「ショーとしての楽しみもある」「お家ごとに楽しみ方があっていい」という『鏡獅子』。
獅子物として女方のもの、立役のものがあり、「それが両方やれるということで、能楽の趣向をとって弥生と獅子をやることにしたんでしょう。そう考えると、両者を踊り分けることが大事になってきます。でも、お能と違い直面(ひためん、面をつけない)で弥生がよくて獅子もいいというのは難しい。内容的には前シテが難しいですが、後シテも、精霊ですから何十回も毛を振ればいいというものでもなく、かといって品よく10回振ればいいものでもありません」。
前シテには「矢の字(の帯)でお尻は出せない、線は崩せない。二枚扇を踊り、金銀の扇、音頭も踊る」といった、動きが制約される衣裳でしっかり踊らなければならない難しさがあります。また、女方は「身体も獅子用ではないから」後シテが弱くなりやすい。「両方きちっとできる人は、…難しいですね。十七代目中村屋さん(勘三郎)がよかった。(七世)梅幸さんがたびたびなさっているのも、両方おできになったから」。踊る側の難しさが伝わり、だからこそ観る楽しみも増してきました。
『藤娘』
「どこが難しいかというと、あいまいな人格であること。藤を担いでいる大津絵なのか、藤の精なのか…」、それが『藤娘』。八千代座でも数回、踊っていますが、今回は「たぶん藤音頭のあたりを踊らせていただき、前後は映像で。『藤娘』が今に残ったのは名曲だからで、もともと潮来だったのを藤音頭にしたのは六代目菊五郎さん。潮来のままだったら今ほどヒットしていたかはわかりませんね」。収録映像も多くあり、映像と実演ならではのコラボレーションの妙が期待できそうです。
どちらの演目も大きな劇場で全曲を踊るのは体力的に難しいという玉三郎は、演目の継承についても憂慮しています。時代に合わせて『鏡獅子』も『藤娘』も変化したのは、「いい意味で歌舞伎」ではあるけれど、実際にありえないことを「あたかもそうだろうと見えるように演じなければ成立しないのも歌舞伎」。新しい試みの継続にもさまざまな思いが込められています。
八千代座30年の区切りに向けて
八千代座八十周年・復興記念として平成2(1990)年に、玉三郎が公演を始めてからもうすぐ30年。「襲名興行も回れるような劇場になったのでよかった。楽屋とか劇場の裏側ができたのが大きいと思います。外観があるなら、ちゃんとしたしつらえがあってしかるべきじゃないかと、空調も入れて四季を通じて使えますし」、強引にわがままを言ってよかったと、冗談を交えて振り返った玉三郎。
「お客様が親しみをもって見に来てくださる」八千代座で、「どうやって今の体力で楽しんでいただけるものができるか、苦心の策」として始まった「映像×舞踊公演」が、大都市公演に足を運びにくいお客様への新しいお楽しみとして定着すればと願いました。八千代座「坂東玉三郎 映像×舞踊公演」は、10月30日(火)から11月4日(日)までの公演。チケットは7月21日(土)10:00より、電話受付(0968-43-0202)にて発売予定です。