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海老蔵が語る歌舞伎座「七月大歌舞伎」
7月5日(木)に初日を迎える、歌舞伎座百三十年「七月大歌舞伎」について、出演の市川海老蔵が語りました。
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信長一色だった海老蔵が秀吉に挑む
当時、海老蔵を名のっていた祖父十一世團十郎の秀吉。その傍らの一段高いところに立つ三法師公は、市川夏雄を名のって初舞台を踏んだ父十二世團十郎。「私は祖父に会ったことはありませんが、子どもの頃にその『大徳寺』の写真を見て、父の初舞台に祖父がその狂言を選んだ理由も聞き、祖父はそういう思いで父をこの舞台に出したんだ、自分もいつかやってみたいと思っていました」。その「大徳寺焼香の場」が入った太閤記ものとして、『三國無雙瓢箪久(さんごくむそうひさごのめでたや) 出世太閤記』が上演されます。
「親子でやるものだと思っていたので、倅を授かった今だったら、この場面ができるなと」、祖父が2度手がけた秀吉を海老蔵が勤め、父の初舞台の三法師を息子の堀越勸玄が演じます。祖父に大佛次郎が書き下ろした『若き日の信長』では三代にわたり信長を勤め、さらに海老蔵はテレビドラマや歌舞伎以外の舞台でも信長を演じており、「これまで信長一色で過ごしてきました。信長は大好きですが、秀吉には私にないものがある。本質的に私からかなり遠い」という自覚があります。
「人たらしで頭脳明晰な秀吉に、挑戦したいなと。40歳になり、自分の可能性をもう少し広げていかないといけないのではないか、というのも正直ありました」。写真の『大徳寺』で見た十一世團十郎の美しい秀吉も頭に置きつつ、「私はもう少し写実的に、猿と呼ばれていた時代を過ごしてきた人物としての部分も追いたいなと思っています」。幕開きには夢の場面で「西遊記」の孫悟空として宙乗りを見せ、勢力争いの物語をわかりやすく見せる工夫も検討していると明かしました。
つながる團十郎家の『源氏物語』
「祖父がつくった『源氏物語』、父が継承した『源氏物語』、そして私が変化を与えて幅を広げた『源氏物語』。倅がそれを見て、自分の『源氏物語』をつくるのではないか。私はここではパイプラインだと思っています」。絶世の美男子として九世海老蔵を世に送り出し、十世海老蔵が継承して十二世團十郎としても勤めた『源氏物語』の光の君。当代海老蔵が5歳で初お目見得を果たした作品で、同じ5歳の勸玄が、今回初めて、若き日の光の君を勤めます。
海老蔵が与えた変化、幅とは、光の君の孤独です。「孤独を表すためには周りが華やかだったり、別の情景が浮かぶようにすること。そうすることで、その人の孤独感が増すだろう」と、能、オペラ、華道を歌舞伎に融合させた舞台を重ねてきました。「光の君のドラマに焦点を当てた、芸術性の高いものになることは約束できます」。歌舞伎よりも歴史ある伝統芸能とともに「宙を舞うというドラマができたら、それ以上のロマンはないのでは」と、「歴史的に初めての試みとなる宙乗り」も見せます。
4年前から上演を重ねている海老蔵の『源氏物語』が、歌舞伎座で上演されるのは初めて。プロセニアム(舞台と客席を区切る枠の部分)を超えて映像を使い、「歌舞伎座がこうなるの!と皆様の度肝を抜くものをと、澤邊芳明さんにお願いしています」。桟敷席のお客様が見づらくならない程度に、「できれば天井くらいまで(映像が)はみ出る形にしたい。紫式部の書く時代にタイムトリップしたのかと思わせる世界観と、(映像により際立つ)光の君の孤独。この2つです」と、映像の演出にも期待を持たせました。
「7月、歌舞伎座、頑張ります!」
昼夜ともに、成田屋三代にわたる縁の深い演目が並んだ「七月大歌舞伎」。勸玄にも「祖父、父、私がやっているお役をするという認識はあります。でも、今それより重要なことはせりふ、動き」と、海老蔵は時間が許す限り、朝も夕も稽古をつける日々を送っています。
取材の最後に現れ、「堀越勸玄です。7月の歌舞伎は三法師と光の君を勤めさせてもらいます。どうぞ、よろしくお願いいたします」と、大きな声で元気いっぱいに挨拶し、出演が「楽しみ」と満面の笑みを見せた勸玄。厳しく稽古しているという海老蔵へ、この日は「父の日」ということもあり、プレゼントとともに感謝の気持ちを贈った勸玄に対し、「せりふを練習していても、私が父に言われている感じがある」と、不思議な気持ちを率直に明かした海老蔵。7月の歌舞伎座には世代をつないできた父子の思いがあふれます。
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歌舞伎座百三十年「七月大歌舞伎」は、7月5日(木)から29日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹で販売中です。