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鴈治郎、扇雀「松竹大歌舞伎 近松座訪露公演」へ
9月9日(日)よりロシアの2劇場で、「松竹大歌舞伎 近松座訪露公演」が行われます。出演の中村鴈治郎、中村扇雀が、公演に向けての思いを語りました。
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「ロシアにおける日本年」の一大イベントとして上演
一昨年の日露首脳会談により今年は日本とロシアの両国で、数多くの文化関連行事が行われます。なかでも、「松竹大歌舞伎 近松座訪露公演」は、「ロシアにおける日本年」の認定事業として、「伝統文化からポップカルチャーまで、300以上の行事で日本を紹介するなかの目玉行事」と宮川学外務省国際文化交流審議官が紹介したとおり、両国の相互理解に大きな役割を担っています。
同席したミハイル・ユリエビッチ・ガルージン駐日ロシア特命全権大使からも、「日露の相互友好に非常に著しい貢献をするに違いない」と期待が寄せられました。
初の歌舞伎海外公演から90年
歌舞伎の海外公演は1928(昭和3)年のソ連公演が最初で、この90年間に38カ国72公演が行われており、ロシアでの公演は今回が5回目となります。前回は2003(平成15)年6月、モスクワとサンクトペテルブルクで『曽根崎心中』を藤十郎のお初、鴈治郎の徳兵衛で上演、藤十郎はロシア連邦文化省文化功労賞を受賞しています。今回も90年前と同じ2都市で、近松門左衛門の『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』と、『吉野山』を上演します。
15年ぶりのロシア公演にあたり、迫本淳一松竹株式会社社長は協賛協力各所への感謝とともに、「歌舞伎をロシアでご覧いただける機会を楽しみ、少しでも日露の文化交流に貢献できるよう、微力を尽くせればと思っております」と挨拶しました。この公演は、世界各国の舞台をロシアに紹介するチェーホフ国際演劇祭の一つとして行われます。
鴈治郎は2度目、扇雀は初のロシア公演
「15年前の訪露公演が人生初のロシアでした。ロシアの方々は舞台芸術への関心、理解度が高いとつくづく感じた公演でございました。『曽根崎心中』はいわゆる歌舞伎の要素であるところの様式美というより、芝居、ドラマをお見せするもの。しかし、言葉の壁を乗り越え、喜んでいただいた覚えがございます。今回の『傾城反魂香』もドラマ、そして『吉野山』は歌舞伎の様式美を持ったもの。喜んでいただけると思います」と語った鴈治郎は、ロシア大使館での製作発表に出席できて光栄と笑顔を見せました。
扇雀も大使館に入り、「日本の代表として出させていただく。大変な責任を負っていると痛感しました」と緊張の様子。しかし、これまでも数々の海外公演を経験し、「世界のいろいろな演劇も拝見してきましたが、やはり、歌舞伎も決して負けていない、素晴らしい演劇だと自負しています」と、自身初のロシア公演も自信を持って臨みます。「特に、女方が一つの技術として残っているのは歌舞伎だけ。世界に発信できる日本文化の代表の一つで、それを勤めさせていただくことに大きな責任を感じますが、期待感のほうが強いです」。
ドラマを見せる『傾城反魂香』と様式美の『吉野山』
『傾城反魂香』は、ロシアでは1987(昭和62)年に五世富十郎と藤十郎が上演。また、又平おとくを鴈治郎と扇雀で演じるのは3回目です。しゃべるのが不自由な又平は、「ほとんどしゃべっておりませんので、体で表す演技を見ていただく芝居。夫婦愛、情熱から奇跡が起こります」と鴈治郎。「その奇跡を妻が支える。手をさすり、夫によくやったね、と。演劇は国境を超えると思いますので、この夫婦愛を十分に伝えたい」と扇雀。
『吉野山』については、扇雀が「日本を代表する舞踊の一つ。静御前では、お客様に“男なの?”と思っていただけるように勤めたい」と、期待に胸をふくらませていました。鴈治郎は、前回、女方として出演した藤十郎が、三代目鴈治郎だったので、「今回、代が変わっております、前回の鴈治郎は藤十郎になっております」と強調し、「その父が芸術監督として、ロシアで近松座公演ができることをたいへん喜び、光栄ですと申しておりました」と、藤十郎の言葉を紹介しました。近松作品を上演するため、藤十郎が1981(昭和56)年に立ち上げた「近松座」としては、11年ぶりの海外公演です。
芸術への理解度が高いロシアの国民性
「前回の公演では、芝居をしーんとしてご覧になって、終わった途端にものすごい拍手が起き、本当に真剣に観てくださっているなと感じました」。鴈治郎は、「ロシア国民の方々の舞台芸術の理解度は群を抜いている」と、経験からロシアの観客に信頼を寄せました。初のロシア公演となる扇雀も、「いろいろな演劇をご覧になっている方が観れば、確実にカーテンコールが起こると思います」と続け、15年ぶりの歌舞伎公演で、歌舞伎は初めてという方も多いだろうが心配はしていないと、二人は自信を見せました。
公演の応援に駆け付けた森 喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長も、15年前の公演は「劇場の前に人の山ができた」ほど、ロシアでは歌舞伎への関心が高く、「私自身も涙が出るほどすごい熱演で、周囲が感動して熱心に観ていた。本当に喜んでいる、理解されていると思いました」と振り返りました。そして、「今回も、日露文化交流の礎石となるよう、頑張っていただきたい」と鴈治郎、扇雀にエールを贈っていました。
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ロシアにおける日本年認定事業
「松竹大歌舞伎 近松座訪露公演」
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芸術監督:坂田藤十郎
近松門左衛門 作
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
土佐将監閑居の場
浮世又平後に土佐又平光起:中村鴈治郎
土佐将監:片岡市蔵
狩野雅楽之助:中村亀鶴
又平女房おとく:中村扇雀
義経千本桜
二、吉野山(よしのやま)
佐藤忠信実は源九郎狐:中村鴈治郎
逸見藤太:中村亀鶴
静御前:中村扇雀
■日時、会場
【モスクワ公演】
2018年9月9日(日)~15日(土) 19:00開演
モスソビエト劇場
全席指定:500~12,000ルーブル
【サンクトペテルブルク公演】
2018年9月19日(水)~22日(土) 19:00開演
ボリショイドラマ劇場
全席指定:500~5,000ルーブル
※時間は現地
チェーホフ国際演劇祭「松竹大歌舞伎」公式サイト(ロシア語・英語表記)