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「四国こんぴら歌舞伎大芝居」初日の賑わい
4月8日(土)、香川県の旧金毘羅大芝居(金丸座)で、「第三十三回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」が初日を迎えました。
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桜に彩られた坂道を上ると、木戸芸者の口上の声もひときわ賑やかな金丸座に着きます。中に入ると出演俳優の紋が入った提灯に窓からの明かり、タイムトリップしたような芝居小屋ですが、今回から東西の桟敷に椅子席が設けられ、いっそう舞台が見やすくなりました。今年は、ご当地讃岐出身の平賀源内が、福内鬼外の筆名で書いた『神霊矢口渡』で初日の幕が開きました。
ひと目惚れした義峯を救い、来世での約束を信じて我が身を犠牲にするお舟、演じる孝太郎は10年ぶりの金丸座出演です。彌十郎の頓兵衛が蜘蛛手蛸足で見せる引込みは、花道が客席に近い金丸座ではより迫力が増しました。新田家の御旗や水破兵破の矢、霊力の起こす奇跡も金丸座ではなんの不思議もなく感じられました。
続く『将門』は、五代目を襲名した雀右衛門が初役で滝夜叉姫に挑みました。光圀は松緑。差出しの灯りで浮かび上がる傾城如月は、なんとも言えない妖気を漂わせます。正体を見破った光圀と滝夜叉姫との立廻り、崩れ落ちる古御所、不気味な大蝦蟇、古風な芝居のすべてが、金丸座という空間にぴったりはまりました。
第一部の切は『お祭り』です。賑やかな屋台囃子が聞こえ、江戸のいなせな鳶が登場します。背景の積み樽は地元琴平の銘酒、金陵。ほろ酔い加減の鳶頭は仁左衛門です。15年ぶりの金丸座出演とあって、「待ってました!」のかけ声に客席が大きく沸きました。江戸情緒たっぷりの粋なひと幕で、劇場をあとにするお客様の賑やかな声が琴平の山間に響き渡っていました。
第二部は『葛の葉』から。雀右衛門が4度目の葛の葉を勤めます。安倍保名の女房となった葛の葉と、保名と結婚の約束をしていた葛の葉姫、鮮やかな雀右衛門の早替りに客席から声が上がります。我が子を抱きながら障子に和歌を書き始めると、お客様も一文字一文字に集中、見事に曲書きが終わったときには、自然と拍手が起きました。
幕間をはさんで祝幕が引かれた舞台には、雀右衛門を中心に八人が並び、五代目中村雀右衛門襲名披露「口上」が始まりました。仁左衛門は先代について、「おじ様は新作歌舞伎でたいへん斬新な女方の芸を印され、古典におきましては誠に古風な素晴らしい演技をされました、尊敬いたしまする大先輩」と讃え、その芸風を受け継いだ襲名と、当代を紹介しました。
孝太郎は「公私ともにお世話になっているお兄さん」、彌十郎は「私が一つ年下で、とても可愛がっていただいております」、松緑は「これからもご一緒の舞台ができることをとても楽しみに思っております」と、五代目の人柄がうかがえる口上が続き、友右衛門が弟、廣太郎と廣松は叔父の襲名披露への感謝の気持ちを述べました。最後に雀右衛門が深い感謝の念とともに、「こののちは雀右衛門の名に恥じぬよう芸道に精進いたしますれば、ご指導ご鞭撻のほど、ひとえにお願い申し上げ奉りまする」と述べると、満場のお客様からは大きな祝福の拍手が贈られました。
最後の幕は『身替座禅』、仁左衛門の右京と彌十郎の玉の井です。背景が松羽目になって金丸座の雰囲気も一変、都の大名が暮らす雅びな世界が現れました。しかし、女性に会いに行こうと画策する夫と、やきもち焼きでひとときも夫と離れたくない奥方、夫婦の駆け引きの面白さは時代も場所も身分も関係ありません。いい気分で花道から現れた右京に、くすりと吹き出し、玉の井にやり込められる右京に大笑い。右京は善光寺ではなく、「讃岐のこんぴらさんに…」と言い訳しましたが、玉の井はやっぱり許してくれませんでした。楽しくご観劇されたお客様の笑顔がいつまでも残る打ち出しとなりました。
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旧金毘羅大芝居(金丸座)「第三十三回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」中村芝雀改め五代目中村雀右衛門襲名披露は、4月23日(日)までの公演。チケットは、「四国こんぴら歌舞伎大芝居」事務局(0877-75-6714)までお問い合わせください。