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愛之助の『連獅子』、吉弥の『鷺娘』-「松竹歌舞伎舞踊公演」の魅力
11月に行われる「松竹歌舞伎舞踊公演」について、片岡愛之助が公演への思いを語りました。
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――愛之助さんはこれまで、『連獅子』の親獅子、仔獅子、両方なさっています。
親獅子が愛情を持って仔獅子を崖から谷に蹴落とし、仔獅子が這い上がってくるのを待つ。そういう親子の情愛の物語が素敵ですし、曲もすごくいい。とても好きな狂言です。
親は子に、自分の背中を見ろといわんばかりに、どっしりとしています。子は若々しく。花道から出てくるところで、圧倒的に親獅子、仔獅子だと見えないといけません。歌舞伎は“らしく”見せる、いかにそれらしく見えるかが大事です。百獣の王、獅子としては、“無”になることが大切。変に意識すると力が入って小さくなってしまいます。そして、(能に題材を得た)松羽目物ですので格調高く、品よく踊ります。
――初めは狂言師として踊ります。
歌舞伎って客席がワーッと沸く毛振りのような派手なところより、実は、そこへもっていくまでのほうが、演じ手としては大変なんです。『連獅子』なら親子の情愛を、内側からにじみ出てくるものでお客様に見ていただけないといけない。そこに踊る側の難しさがあります。
――獅子となって再び現れてからはいかがですか。
獅子の精の荒々しさや親子の戯れ等々、全体にみどころがちりばめられています。動と静、激しい動きだけでなく止まった瞬間もしっかりご覧いただきたい。毛振りは何種類かの振りの組み合わせでつくり、原則として親獅子が足をポンと踏むまで振ります。今回は、仔獅子の千太郎がどこまで振れるのか、その日の様子も見て振ります。あまり振りすぎると、三味線の方が大変ですから、ほどほどに。
千太郎は、父(片岡秀太郎)の部屋子です。私も十三世仁左衛門の部屋子でしたので共通点があり、役者として大きく育ってほしいと願っています。お芝居が大好きで、私よりよほどしっかりしています。
――獅子に変わる前には、間狂言(あいきょうげん)があります。
間狂言を楽しんでいただくと、息抜きになってお客様の気分も変わります。そして獅子の踊りへ。全体としてとてもバランスのよい構成になっています。
――舞踊はせりふもないし、見てもわからない、と思っている方もいらっしゃるのでは。
唄の歌詞を聴いていただくと、ものすごくわかりやすいと思います。当て振りとまでは言いませんが、唄で「戯れ遊ぶ」とあれば、振りでも戯れ遊んでいるんです。見るだけでなく、耳で聴き、五感を活かして楽しんでいただきたいですね。
2020年に向け、海外の方に歌舞伎というものを胸を張って説明していただけるくらい、楽しみと知識を得てくださったらうれしい。そのためには、自分たちが少しでも多くの場所で公演をして、歌舞伎をご覧くださるきっかけをつくりたいと思っています。
――公演の幕開きには、愛之助さんのご挨拶があります。
『連獅子』では化粧でわからないかもしれないので、素顔でご挨拶をして、テレビでしか私の顔をご存じない方にもわかっていただき、少しでもお客様との距離を縮めたいと思います。今回の公演では、少しは観光する時間があればいいなと期待しておりますので(笑)、舞台の外でもお目にかかるかもしれません。楽しみにしています。
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『鷺娘』を踊る上村吉弥に、作品への思いを聞きました。
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――吉弥さんが踊る『鷺娘』には、どういう魅力がありますか。
代表的な女方の踊りで、見た目にも変化に富んだ、お客様が退屈なさらない構成になっています。雪の中に白無垢で佇む鷺の精、引き抜いて衣裳が変わり、女方の心情を見せるクドキ、手踊りや傘づくしの踊り、ぶっ返り。短い時間の中で鬘(かつら)も衣裳も踊りも変化していくところを、楽しんでいただければと思います。
振りの中に鷺足、海老ぞりなど、女方舞踊の技法をお見せするところもありますが、形を美しく見せると同時に、動きと動きの間をきれいに見せる、つなぎをうまく見せることも大切で、たいへんな体力が必要になります。そこへ恋のせつなさ、つらさといった感情や振りの意味を込めるからこそ、お客様の心に響きます。衣裳も重いので、体重を落として臨まないと、と今から心しております。
――「引抜き」と「ぶっ返り」はいつ見ても鮮やかで、客席もおおいに沸きます。
薄暗い照明の中で、引き抜いて町娘になるところは、一番難しい引抜きといわれます。上から包んでいる袋状の衣裳を抜くので、着物の裾の裏側、振り下げの帯もすっかり変わります。しかも一瞬に、後見が二人がかりで引き抜くので、踊り手を含めたチームプレーが大切です。そのあと、傘に隠れての引抜きもあります。最後には鬘もさばき、ぶっ返りで赤い襦袢と、鷺の羽を見せます。
――町娘の明るさから一転、鷺の精に戻ってからは地獄の責苦に遭います。
ここに女方の舞踊ならではの魅力があります。さまざまな地獄の責めを受け、曲調とともに雪もだんだん激しくなり、壮絶な鷺の精の苦しみも幕切れに向かって極まってきます。最後はいくつかのやり方がありますが、鷺の精は息絶え、昇天します。
女方の『鷺娘』のあとに立役が踊る『連獅子』、まったく違った趣で、初めてご覧になられるお客様にも十分に楽しんでいただけると思います。
「松竹歌舞伎舞踊公演」の公演情報はこちら。公演会場の情報は決まり次第、追記します。