菊五郎が語る『籠釣瓶花街酔醒』
新橋演舞場「十二月大歌舞伎」の開幕を前に、尾上菊五郎が初役で挑む『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』佐野次郎左衛門について語りました。
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■初役はつくり上げる過程が楽しい
いくつもの当り役を持つ菊五郎が手がける初役。「緊張しますね。下手なものはできないぞと、自分で自分にプレッシャーをかけています」と言いつつも、役をつくり上げていく段階は楽しいのだそうです。
菊五郎が2度の八ツ橋を演じたとき(昭和47年10月国立劇場、昭和58年10月御園座)と、栄之丞を演じたとき(昭和57年4月新橋演舞場)の次郎左衛門は十七世中村勘三郎。九重を演じた昭和50年11月歌舞伎座では、八世松本幸四郎(初世松本白鸚)が次郎左衛門でした。初世中村吉右衛門がつくり上げた次郎左衛門を受継ぐ二人の播磨屋型は、「せりふの抑揚が素晴らしい。耳にしっかり残っています」。でも、「それを声色で(まねて)やるくらいなら、最初からやらなくていい」。台本を読み込み、今回、自分が演じる意味を見出していきます。
■縁切りからの次郎左衛門
菊五郎が注目したのは縁切り場でした。「愛想づかしをされてしょんぼり帰るところは、風情があって、もちろんいいけれど、私は、縁切りの最中から殺してやろうと思っていて、"袖なかろうぜ"のせりふから一気に逆上して、花魁に怒りをぶつけていくやり方でやってみたいと思っております」。
これまでの上演では、縁切りでかっとなるのは主人を侮辱された下男の治六のほうですが、今回は「八ツ橋に飛びかかって行きたいほどだが、今はいけないと抑えている」次郎左衛門の怒りの大きさが勝り、ここですべての覚悟を決めます。「そのときからもう、妖刀籠釣瓶が憑いているのかもしれませんね」。
見染めの場をはじめ、縁切りまでは変えようがないとも言う菊五郎は、台本を読んで「気持ちで出てくる言葉」をすくい取り、音羽屋の次郎左衛門をつくり上げようとしています。「これだけ完璧にでき上がっている『籠釣瓶』ですから」と、最後は今回の初役にかける強い思いと、先人がつくり上げてきた作品に対する敬意を込めた言葉で締めくくりました。
■もう一役も初役で
昼の部の『御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)』では、これまで出演したことのない場「芋洗い勧進帳」で、富樫左衛門を演じます。「『勧進帳』の富樫と似ているけど違う。似てて違うというのが一番せりふが覚えにくい」と言いつつも、こちらの初役挑戦にも意欲を見せました。公演中は、夜明け前にいったん起きて数時間、次の芝居の勉強をし、もう一度寝て起きたら、その日の芝居に切り替えるという生活だそうです。
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新橋演舞場「十二月大歌舞伎」は1日(土)初日、25(火)千穐楽。チケットはチケットWeb松竹、チケットホン松竹にて販売中です。