吉右衛門が重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)の喜びを語りました
7月15日(金)、中村吉右衛門が重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)に認定されることが発表になりました。
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中村吉右衛門
この度、重要無形文化財保持者に認定していただきまして心から喜んでおります、と同時に大変な責任に緊張しております。私の持っている芸なり技術なりが国にとって重要なものであると認めていただいたことは大変な名誉でございますが、その芸を次の世代に伝えなさい、ということでもありますから、今年9月に襲名いたします新又五郎(歌昇)さんの息子の新歌昇(種太郎)さんや種之助さん、歌六さんの息子の米吉さん、亡くなりました富十郎兄さんの遺児の鷹之資さん達を、一緒に勉強して立派な一人前の役者になるように育てて差し上げる、いろいろなことをアドバイスすることも私の勤めだと思います。
実父の(初代)白鸚や多くの先輩方から、「人の良いところの真似をしろ」「芝居を多く観て覚えろ」と言われて参りました。真似をしてそれを体の中に全部取り込み、自分のものになったら、自分の考えを少しずつその中に取り入れてもいいよと、今も教えていただいとおりにしています。また、我々役者は上を向いて歩いていかないと落ちていってしまうものですから、常に高みを目指していくということも大切です。今まで修行してきた道筋はそれでいいよと仰っていただけたと思うので、これから先も舞台に対する意気込みや気構えを変えることなく、修行を続けていきたいと思っています。
自分が若い方々に教え伝えていることが正しいかどうかはなかなか分からないものです。芝居というのは時代によって移り変わり、それに沿っていきます。私の場合は伝統歌舞伎という昔からのものをまず伝えようと思っています。「這えば立て立てば歩めの親心」という言葉がありますが、教えられている若い方々は、他の方から見ればきっとよくやっていると思われるのでしょうが、教えるこちらは「まだ足りない、まだ、まだ」と、ついなってしまいますね(笑)。
一番の支えはやはり家族・・・女房、子ども、息が抜けるのは家に帰ったときです。そして、私を支援してくださるファン、ご贔屓の方達の変わらない本当に長い間のご支援も大切な支えです。これからは、初代吉右衛門が制定した秀山十種に自分の創った作品を加えていきたいですし、また、松貫四という名前で続けている創作活動で、皆様に感動を覚えていただけるような芝居を創り続けていきたいと思っております。そして、80歳になった時に25日間『勧進帳』の弁慶を勤められたらな、というのが今のところの夢でございます。