幸四郎、染五郎『江戸宵闇妖鉤爪』で意気込みを語りました~大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」

幸四郎、染五郎『江戸宵闇妖鉤爪』で意気込みを語りました

 大阪松竹座一月公演「壽初春大歌舞伎」、夜の部で『江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)』に出演する松本幸四郎、市川染五郎が意気込みを語りました。

松本幸四郎
 江戸川乱歩を歌舞伎にできないかと言い出したのはここにいる市川染五郎なんです(笑)。そして、脚本の岩豪友樹子さんが他の乱歩の作品からも、乱歩らしさをふんだんに取り入れ、さらに時を江戸幕末に移した素晴らしい本を書いて下さいました。おかげさまで、初演の東京では、お客様にたっぷりと乱歩の世界に入り込んで頂きました。

 面白い歌舞伎を新たに作ろうという強い思いからこの『江戸宵闇妖鉤爪』が生まれました。見て面白い、しかし考えさせられるようなお芝居です。歌舞伎は古いと言われることもありますが、優れた古い物は新しさを持っています。

 虐げられた人間の怨念、恨み、そうした人間の思いの塊が恩田という人間豹です。明智小五郎は物語が進むにつれて、その怪物をだんだん羨ましいと思い始めます。怪物の方が良い、学問や教養を修めた人間なんかよりも。そうした2人の対決は見どころの一つです。対決しながらも理屈を言い合う2人、そこは面白くていかにも歌舞伎的です。こうした原作にはない明智小五郎像は、歌舞伎だからこそ受け入れられたのではないでしょうか。

 大阪松竹座の大歌舞伎に出演するのは11年ぶりですから、つまらないものをお見せするわけにはいきません。本当に芝居を楽しもうとする客席の雰囲気がムンムンと舞台に伝わってくる大阪で上演できる事が今から楽しみです。幸四郎と染五郎が創った"乱歩歌舞伎"。ぜひ期待していただきたいと思っています。

幸四郎、染五郎『江戸宵闇妖鉤爪』で意気込みを語りました

市川染五郎
 1月、大阪松竹座に出演するのは初めての事で、その中で『江戸宵闇妖鉤爪』を再演出来ることをとても嬉しく思っています。乱歩の作品が歌舞伎にならないかと思うようになったのは、もう15年ほど前の事です。乱歩の作品の多くは下町が舞台となっていますが、そこにモダンな美しさを感じていて"モダンな歌舞伎"があっても良いのではないかと思っていました。歌舞伎化の夢をずっと暖めてきた思い入れの強い作品ですから、初演で勤めさせていただいたときは本当に感無量でした。

 恩田は何の為に、特定の人をターゲットに恐怖を起こすのか最後の最後まで分かりません。最後は大凧に乗って逃げていき、あの得体の知れないものは何だったんだろう・・・という思いだけが残ります。いわゆる"勧善懲悪"ではない芝居も、一種独特の歌舞伎の話になるのではないかと思います。明確な目的のない恩田は、私の中では「羊たちの沈黙」という映画のレクターとイメージが重なっています。

 顔(化粧)も特徴的ですし、ワイヤーアクションや宙乗りといった超人的な動きも見どころのひとつです。「人間豹」が歌舞伎になったら面白いだろうと思っていた僕自身が凄く驚くような作品になっています。その思いを大切にして、松竹座という新たな場所で挑みたいと思っています。一気に駆け抜けるような作品です。お客様に、初春から驚いていただけるような歌舞伎をお見せすることを目指したいと思っています。

 昼の部では、松本幸四郎は『男の花道』土生玄碩、市川染五郎は『土屋主税』大高源吾、『男の花道』加賀屋歌之助を勤めます。大阪松竹座一月公演「壽初春大歌舞伎」、チケット好評発売中です!

2010/12/09