片岡仁左衛門、澤村藤十郎「関西・歌舞伎を愛する会 結成三十周年記念 七月大歌舞伎」への想い
7月大阪松竹座では「関西・歌舞伎を愛する会 結成三十周年記念 七月大歌舞伎」が上演されます。この公演は昭和54年に「関西で歌舞伎を育てる会」が結成されてから、平成4年の「関西・歌舞伎を愛する会」への名称変更を経て、30年の歩みを記念しての公演になります。
今回『御浜御殿綱豊卿』の徳川綱豊卿、『双蝶々曲輪日記』の南与兵衛後に南方十次兵衛で出演する片岡仁左衛門と、『弥栄芝居賑』で構成を担当する澤村藤十郎が公演への想いを語りました。
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片岡仁左衛門
大阪での夏の歌舞伎が恒例となり、今年で三十周年、この記念の公演を今まで以上に盛り上げたいと思っています。「関西で歌舞伎を育てる会」から始まるこの公演は、やはり最初に第1回の公演を立ち上げてくださった紀伊國屋さん(澤村藤十郎)のご努力があってこそ。今回はチラシにも澤村藤十郎というお名前が掲載されとても嬉しく、それだけに尚更成功させたい意欲に満ちております。
とにかく藤十郎さんはアイディアマンです。この関西・歌舞伎を愛する会はもちろん、御存じのとおり、金比羅・金丸座が成功したのも彼の仕事によるところが大きく、それ以降芝居小屋が各地で復活しております。そういう意味で、本当に歌舞伎の功労者だと思っています。
澤村藤十郎
昭和50年(1975)に父(八代目澤村宗十郎)が亡くなり、翌51年に兄が宗十郎(九代目)、私が藤十郎(二代目)で襲名興行をいたしました。そして昭和52年5月、この大阪へ参りまして新歌舞伎座の顔見世公演で襲名興行を行わせていただきました。
実は、その5月の襲名興行を最後に大阪では顔見世が無くなってしまいました。自分の襲名興行で、一つの劇場の顔見世を止めてしまった・・・すごくやるせなかったですね。そしてなんとかならいかという思いで、当時の大阪市長様にお会いして、思いを述べさせていただいたところ、「ぜひ応援しましょう」と言い、大阪市が歌舞伎に対する予算を付けてくれる事になりました。そうしてこの公演が始まりました。
この三十年で想い出に残る舞台―――
仁左衛門
一つ二つをあげるのはとても難しいのですが、この公演を中座で行っていたころ、お客様が一杯で入りきれなくなって、二階席の階段に紙を敷いてまで大勢のお客様が見てくださった・・・関西歌舞伎のどん底を知っていますから、もうそれは忘れられませんね。父と『沼津』をやれたことも嬉しかったですね。私は初役でしたし、父は目がほとんど見えなかったと思いますけれど、一緒に客席を廻ったことを良く覚えています。
それから、勉強会もやりました。父が亡くなった年(平成6年)に、若手の名題さんや三階さん達に勉強の場を与えようじゃないかということで、初めての試みとして一回公演の日を利用して行いました。なかなかお客様も来てくださらないだろうから、狸会・・・つまり私たちが三味線や鳴物を演奏して、若手の方々がお芝居をする。その時は夜の公演だったのですが、それにも関わらず切符を買う為に朝から行列ができたんです。しかも真夏ですからね、これは嬉しかったです。
藤十郎
この公演の第一回のときの事ですが、生まれて初めて歌舞伎をご覧になるサラリーマンの方が大勢観に来るわけですから、そういう方にもわかりやすいように「歌舞伎の見方」というのを付けたんです。
そして最後には、歌舞伎の馬を舞台に乗せて、「どなたか乗っていただけませんか」って、客席に話しかけたらシーンとしちゃったんですよ(笑)。困ったなと思っていたら、「ハイ」って女の人が声を掛けてくださって、ワイヤレスマイクを持って下に迎えに行ったら、80歳近いおばあちゃんでした(笑)。
花道を一緒にインタビューしながら歩いて、ポラロイドで写真を撮って差し上げたら、それが新聞で大きく紹介されて。それから大変大勢のお客様が入り評判になりました。その後、お弟子さんが近所のお風呂屋さんに行ったら、「今中座でね、舞台へ上げて馬に乗せる面白い芝居がやってんだよ」って伺ったそうで(笑)。あっこれで成功するなって思いました。実は、それが元なんですよ。きっかけは本当に何でもいいと思います。それがこうして盛り上がって今に繋がって本当に嬉しく思っています。
今回の演目について―――
仁左衛門
『御浜御殿綱豊卿』は関西では20年以上勤めておりませんので久しぶりです。『双蝶々曲輪日記』も大阪では初めてです。関西・歌舞伎を愛する会では、とにかくわかりやすいお芝居をということを心がけておりますので、「引窓」も前のエピソードを付けて、よりお芝居をわかりやすくしたいと考えています。そして、できるだけ若い人たちが活躍できるような構成にしようと思っています。
『弥栄芝居賑』では、単に役を演じている役者をお見せするのではなく、登場人物と演じている役者が混同するような形で、そしてお客様が親近感を抱いてくださるような一幕になるように、藤十郎さんと色々と考えているところです。ぜひ楽しみにしていてください。