彌十郎『四谷怪談忠臣蔵』泉岳寺で成功祈願
新橋演舞場4月公演「陽春花形歌舞伎」、市川猿之助演出『四谷怪談忠臣蔵』で大星由良之助を勤める坂東彌十郎が泉岳寺を訪れ公演の成功を祈願し、舞台への想いを語りました。
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参拝させていただき、今日から始まるという新たな思いとともに、きっちりと勤め上げなければ義士の方々に申し訳ないという思いが一段と湧いて参りました。
今回、大星由良之助を初めて勤めさせて頂きます。今までいろいろな由良之助様にお仕えして参りましたが、先輩方はみな巧まずに由良之助になっていらっしゃいました。由良之助は懐が大きく、ただ座ってじっと見つめているだけで、お客様に心が伝わるようでなければいけないと思います。今は夢の中でも、どうしらた由良之助に見えるかと、毎日焦りながら考えています。
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猿之助さんの演出されるお芝居に出演させていただくのは14年ぶりです。僕を育てて下さった大恩人です。出演が決まり御挨拶に伺ったときに、『黒塚』を描いた直筆の絵を頂きましたが、私の大切な宝物です。
以前ご一緒させていただいた頃、猿之助さんから「離見の見」、一所懸命に芝居をしながらも自分を冷静に離れて見なさいという世阿弥の言葉、そして思い切り感動しなさい、自分が感動しないと人は感動させられない、と教えていただきました。その言葉を今も大切に舞台を勤めています。
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この四月は歌舞伎座さよなら公演最後の月にあたりますが、その月に新橋演舞場で由良之助を勤めさせていただけるというのは責任も重く、大変有難いことです。そして演舞場でこのお芝居を見たお客様に、歌舞伎はやっぱり素晴らしい、歌舞伎座も見に行こうかなと思っていただければ、さらに嬉しく思います。
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『忠臣蔵』では、義士の心の繋がり、日本の武士の心という部分が中心になりますが、間に『四谷怪談』が入ることで、人間関係のドラマがさらに広がります。2つの物語が別々にならずに、『四谷怪談』の中にも由良之助が見えて話が進んでいるように感じながらご覧頂きたいと思っています。そして『忠臣蔵』や『四谷怪談』を初めてご覧いただくお客様にも、新鮮に一つの物語として楽しんでいただけるようなお芝居にしたいと思っています。
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参拝を終え、「泉岳寺 義士詣でたり 梅の花」と趣味の俳句を披露していただきました。俳名は本名の「寿男」とヨーロッパ好きをかけあわせた"酔寿(スイス)"。洒落っ気たっぷりの彌十郎が勤める大星由良之助、いまから楽しみです。